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抄紙機のロールクラウン:均一な紙質を確保するための重要な技術

抄紙機の生産工程において、湿紙の脱水から乾紙のセットまで、様々なロールが不可欠な役割を果たしています。抄紙機ロール設計におけるコア技術の一つである「クラウン」は、一見わずかな幾何学的差異に見えますが、紙の品質の均一性と安定性を直接左右します。本稿では、抄紙機ロールのクラウン技術を、定義、動作原理、分類、設計における主要な影響要因、メンテナンスの観点から包括的に分析し、製紙におけるその重要な価値を明らかにします。

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1. クラウンの定義:小さな違いの中にある重要な機能

「クラウン」(英語では「Crown」と表記)とは、抄紙機ロールの軸方向(長手方向)に沿った特殊な幾何学的構造を指します。ロール本体の中央部の直径は両端部の直径よりもわずかに大きく、「ウエストドラム」のような輪郭を形成します。この直径差は通常マイクロメートル(μm)単位で測定され、大型プレスロールのクラウン値は0.1~0.5mmに達することもあります。

クラウン設計を測る上で中心的な指標となるのは「クラウン値」です。これは、ロール本体の最大直径(通常は軸方向の中央)とロール両端の直径の差として算出されます。クラウン設計とは、本質的には、このわずかな直径差を予め設定することで、実際の運転中に力や温度変化などの要因によって引き起こされるロールの「中央たわみ」の変形を相殺することです。最終的には、ロール表面と紙ウェブ(またはその他の接触部品)の全幅にわたって接触圧力が均一に分散され、紙品質の確固たる基盤が築かれます。

2. クラウンの主要機能:変形の補正と均一な圧力の維持

抄紙機ロールの運転中、機械的負荷、温度変化、その他の要因によりロールの変形は避けられません。クラウン設計が適切でない場合、この変形はロール表面と紙ウェブ間の接触圧力の不均一(「両端の圧力が高く、中央の圧力が低い」)につながり、坪量ムラや紙の脱水ムラといった深刻な品質問題に直接影響を及ぼします。クラウンの核心的な価値は、これらの変形を積極的に補正することにあり、具体的には以下の点に反映されます。

2.1 ロール曲げ変形の補正

抄紙機のプレスロールやカレンダーロールなどのコアロールは、運転中に紙ウェブに大きな圧力をかける必要があります。たとえば、プレスロールの線圧は 100 ~ 500 kN/m にも達します。長さと直径の比率が大きいロール(たとえば、広幅抄紙機のプレスロールの長さは 8 ~ 12 メートルになることがあります)では、圧力がかかると中央部が下向きに曲がる弾性変形が発生し、「負荷を受けたショルダーポールの曲がり」に似ています。この変形により、ロールの両端と紙ウェブの間に過剰な接触圧力が発生し、中央部の圧力が不十分になります。その結果、紙ウェブの両端は過剰に脱水され(乾燥度が高く、坪量が低くなる)、中央は脱水不足になります(乾燥度が低く、坪量が高くなります)。

しかし、クラウン設計の「ドラム型」構造により、ロールが曲げられた後もロール表面全体が紙ウェブと平行に接触し続け、均一な圧力分布が実現されます。これにより、曲げ変形による品質リスクを効果的に抑制できます。

2.2 ロールの熱変形の補正

乾燥部のガイドロールやカレンダーロールなど、一部のロールは、高温の紙や蒸気との接触により、運転中に熱膨張を起こします。ロール本体の中央部はより加熱されるため(両端部はベアリングに接続されており、熱放散が速い)、中央部の熱膨張は両端部よりも大きくなり、ロール本体に「中央膨らみ」が生じます。このような場合、従来のクラウン設計では接触圧の不均一性が悪化します。そのため、熱膨張による追加の膨らみを相殺し、ロール表面の接触圧を均一に保つために、「ネガティブクラウン」(中央部の直径が両端部の直径よりわずかに小さい、いわゆる「逆クラウン」)を設計する必要があります。

2.3 ロール表面の不均一な摩耗の補正

長期運転において、一部のロール(プレスゴムロールなど)は、紙ウェブのエッジ部で摩擦が頻繁に発生します(紙ウェブのエッジ部には不純物が付着しやすいため)。その結果、中央部よりも端部の摩耗が早くなります。クラウン設計がない場合、摩耗後にロール表面は「中央部が盛り上がり、端部がたわむ」状態になり、圧力分布に影響を与えます。クラウンをプリセットすることで、摩耗初期段階からロール表面の輪郭を均一に保つことができ、ロールの寿命を延ばし、摩耗による生産変動を低減できます。

3. クラウンの分類:さまざまな作業条件に合わせた技術的選択

抄紙機の種類(低速/高速、狭幅/広幅)、ロールの機能(プレス/カレンダー/ガイド)、および工程要件に基づいて、クラウンは様々なタイプに分類されます。クラウンのタイプによって、設計特性、調整方法、および適用シナリオが異なります。詳細は以下の表をご覧ください。

 

分類 設計特性 調整方法 アプリケーションシナリオ 利点 デメリット
固定クラウン 製造時に、固定されたクラウン輪郭(円弧形状など)がロール本体に直接機械加工されます。 調整不可。工場出荷後に固定されています。 低速抄紙機(速度 < 600 m/分)、ガイドロール、一般プレスの下部ロール。 シンプルな構造、低コスト、メンテナンスが容易。 速度/圧力の変化に適応できず、安定した作業条件にのみ適しています。
制御可能なクラウン ロール本体内部に油圧・空気圧キャビティを設計し、中央の膨らみを圧力で調整します。 油圧/空気圧によるクラウン値のリアルタイム調整。 高速抄紙機(速度>800m/分)、メインプレスの上部ロール、カレンダーロール。 速度/圧力の変動に適応し、高い圧力均一性を保証します。 構造が複雑でコストが高く、精密な制御システムのサポートが必要です。
セグメント化されたクラウン ロール本体は軸方向に沿って複数のセグメント(例えば、3〜5セグメント)に分割され、各セグメントは独立してクラウンが設計されます。 製造中にセグメント化された輪郭を修正しました。 幅が広い抄紙機(幅>6m)、紙ウェブの端が変動しやすいシナリオ。 エッジと中央の間の変形の違いを特に補正できます。 セグメントジョイントでは圧力の急激な変化が発生する可能性が高いため、遷移領域を細かく研磨する必要があります。
テーパードクラウン クラウンは、端から中央に向かって直線的に増加します (円弧形状ではなく)。 固定または微調整可能。 小型の製紙機械、ティッシュペーパーマシン、および圧力均一性の要件が低いその他のシナリオ。 加工難易度が低く、単純な作業条件に適しています。 円弧型クラウンに比べ補正精度が低くなります。

4. クラウン設計における主要な影響要因:生産要件に適応するための正確な計算

クラウン値は恣意的に設定されるものではなく、ロールパラメータとプロセス条件に基づいて包括的に計算し、効果的に機能させる必要があります。クラウン設計に影響を与える主な要因には、主に以下のものがあります。

4.1 ロールの寸法と材質

 

  1. ロールボディ長さ(L)ロール本体が長くなるほど、同じ圧力下での曲げ変形が大きくなり、必要なクラウン値も大きくなります。例えば、幅広抄紙機の長いロールは、変形を補正するために、幅狭抄紙機の短いロールよりも大きなクラウン値が必要となります。
  2. ロール本体直径(D)ロール本体の直径が小さいほど剛性が低くなり、圧力によって変形しやすくなります。そのため、より大きなクラウン値が必要になります。逆に、ロール本体の直径が大きいほど剛性が高くなり、クラウン値を適切に小さくすることができます。
  3. 材料の剛性ロール本体の材質によって剛性は異なります。例えば、鋼製ロールは鋳鉄製ロールよりもはるかに高い剛性を持ちます。剛性が低い材質は圧力下での変形が大きくなるため、より大きなクラウン値が必要になります。

4.2 作動圧力(直線圧力)

プレスロールやカレンダーロールなどのロールの動作圧力(線圧)は、クラウン設計に影響を与える重要な要素です。線圧が大きいほど、ロール本体の曲げ変形が大きくなるため、変形を相殺するためにクラウン値を大きくする必要があります。これらの関係は、おおよそ次の簡略式で表すことができます:クラウン値 H ≈ (P×L³)/(48×E×I)。ここで、Pは線圧、Lはロール長さ、Eは材料の弾性係数、Iはロール断面の慣性モーメントです。たとえば、包装紙用のプレスロールの線圧は通常300 kN/mを超えるため、対応するクラウン値は、線圧が低い文化紙用のプレスロールよりも大きくする必要があります。

4.3 機械速度と用紙の種類

 

  1. 機械速度高速抄紙機(速度1200m/分超)では、低速抄紙機に比べて紙ウェブの圧力均一性に対する感受性がはるかに高く、わずかな圧力変動でも紙質欠陥を引き起こす可能性があります。そのため、高速抄紙機では通常、「可制御クラウン」を採用し、動的変形をリアルタイムで補正することで安定した圧力を確保しています。
  2. 用紙の種類紙の種類によって、圧力均一性に対する要求は異なります。ティッシュペーパー(例:坪量10~20g/m²のトイレットペーパー)は坪量が低く、圧力変動に非常に敏感であるため、高精度のクラウン設計が必要です。一方、厚紙(例:坪量150~400g/m²のボール紙)は圧力変動に対する耐性が強いため、クラウン精度に対する要求は適切に緩和されます。

5. 一般的なクラウンの問題とメンテナンス:安定した生産を確保するためのタイムリーな検査

不適切なクラウン設計や不適切なメンテナンスは、紙の品質に直接影響を与え、一連の生産上の問題を引き起こします。一般的なクラウンの問題とその対策は以下の通りです。

5.1 クラウン値が過度に大きい

クラウン値が過度に大きいと、ロール表面の中央部に過度の圧力がかかり、紙の中央部の坪量が低下し、乾燥度が高くなります。深刻な場合には、「クラッシュ」(繊維の破断)を引き起こし、紙の強度と外観に影響を与える可能性があります。

対策低速抄紙機で使用される固定クラウンロールは、適切なクラウン値を持つロールに交換する必要があります。高速抄紙機の可変クラウンロールは、可変クラウンシステムを介して油圧または空気圧を下げ、圧力分布が均一になるまでクラウン値を下げます。

5.2 クラウン値が小さすぎる

クラウン値が小さすぎると、ロール表面中央部の圧力が不十分になり、紙中央部の脱水が不十分になり、乾燥度が低下し、坪量が増加し、「ウェットスポット」などの品質欠陥が発生します。また、後続の乾燥工程の効率にも影響を与える可能性があります。

対策固定クラウンロールの場合、ロール本体を再加工してクラウン値を上げる必要があります。制御クラウンロールの場合は、油圧または空圧を上昇させることでクラウン値を上げることができ、中間圧力がプロセス要件を満たすことを保証します。

5.3 クラウン輪郭の不均一な摩耗

長期使用により、ロール表面は摩耗します。摩耗が不均一な場合、ロールクラウンの輪郭が変形し、ロール表面に「ムラ」が発生します。さらに、紙に「縞模様」や「へこみ」などの欠陥が発生し、紙の外観品質に深刻な影響を与えます。

対策:ロール表面を定期的に点検し、摩耗が一定レベルに達した場合は、適時にロール表面を研磨・補修(例:プレスゴムロールのクラウン輪郭の再研磨)して、クラウンの形状とサイズを正常に保ち、過度の摩耗による生産への影響を防ぎます。

6. 結論

抄紙機ロールのクラウンは、一見地味ながらも極めて重要な技術であり、紙質の均一性を確保する上で中核を成しています。低速抄紙機の固定クラウンから高速・広幅抄紙機の可変クラウンまで、クラウン技術の継続的な発展は、常に「変形を補正し、均一な圧力を実現する」という中核目標を軸に、様々な製紙作業条件のニーズに適応してきました。合理的なクラウン設計は、紙の坪量ムラや脱水不良といった品質問題を解決するだけでなく、抄紙機の稼働効率向上(紙切れ回数の削減)やエネルギー消費量の削減(過乾燥の回避)にもつながります。これは、製紙業界が「高品質、高効率、低エネルギー消費」を目指して発展していく上で欠かせない重要な技術基盤です。今後の製紙においては、設備精度の継続的な向上とプロセスの継続的な最適化により、クラウン技術はより洗練され、インテリジェント化が進み、製紙業界の高品質化に大きく貢献していくでしょう。


投稿日時: 2025年9月9日